いきなりですが、知らなかったのです。
とてもショックでした。
というのも、すでに30年以上通っていたラーメン屋さんが、いつの間にか閉店していたんです。
年に数回しか行けなかったのですが、私の中では間違いなく“世界一うまいラーメン”でした。
このラーメン屋さん、お客さんが入ってきても「いらっしゃいませ」の一言もありません。
注文しても無言です。
夜遅くに入ってビールを頼むと、嫌な顔をされたこともあります。
水はもちろんセルフ。
その日、レンゲが置かれていなければ、余計なことは言わず、黙って諦めた方が身のためでした。
しかし、です。
ラーメンが運ばれてきて、そのスープをひと口飲めば、それですべてが赦されました。
昔ながらのやさしい味の中華そばで、チャーシューは口に入れた瞬間、噛む前にホロリと崩れ、スープと一緒に舌の上でとろけていくような、私の大好きなタイプ。
大好物のメンマも、これまた私好みのシャキシャキ系で、どれもこれも私にとっては文句なしの一杯でした。
で、先日のことです。
このラーメン屋さんは夜しか営業していなかったのですが、昼間、仕事で久しぶりに店の前を通りかかったのです。
思わず私は、「あっ!」「と◯き◯だ!」「あ〜、ここのラーメン、無性に食べたくなった!」と話したのです。
すると、一緒にいた彼が言いました。
「えっ?」「知らないんですか?」「と◯き◯は、年末に閉店したんですよ」
「ウソでしょ!!」
ということで、とてもショックだったのです。
いつのことだったか、多分10年ほど前だったでしょうか。
その日は店がすごく混んでいて、私は友人と真っ赤なテーブルのカウンター席に座っていました。
そこにおじいさんが1人で入ってきたのですが、あいにく満席。
でも、見ると私と友人が少しレジ寄りにズレれば、1人分は座れそう。
ちょうど予備のイスもあったので、「大丈夫、ズレたら1人座れますよ」と声をかけました。
おじいさんは恐縮しながら、カウンターに腰を下ろしました。
そして、いつもいる「接客ほぼ皆無」の、おあいそ専門のおばちゃんにお金を払い、店を出ようとしたそのときです。
店の親父が、小さな声で「ありがとうございました」と。
「えっ?」と、友人と顔を見合わせてしまいました。
そのとき、通って20年目くらいでしたが、親父の声を聞いたのは初めてでした。
いやー、驚きました。
ただ、次に行ったときは、いつもの無言接客に戻っていて、かえって安心したことを覚えています(笑)。
それにしても、あのスープとメンマとチャーシューを、もう二度と食べられないと思うと、悲しみさえこみ上げてきます。
「味だけが 接客してた ラーメン屋」
感謝の一句、失礼しました。
ほんと、長い間ありがとうございました。
以上です。